労働者協同組合キフクト(令和5年4月設立)

庭づくりを通じ、生きる喜びと幸福とを確かに感じられる世界をつくる。

「労働者協同組合キフクト」は、神奈川県および東京都で、庭や植物に関するさまざまなサービスを提供しています。
現在は、主に戸建て住宅の庭園設計や施工、手入れなどがメインとなっています。私有された空間としての庭だけでなく、広く公共の緑にも関わっていきたいと考えています。

これまでの活動の経緯

コモン(共用財)再生の機運

この30年ほど、私たちは、規制緩和による自由競争を推し進めて社会経済の活性化を図ってきましたが、結果として、そのことが共同体(地域コミュニティや終身雇用制度に代表される日本的経営を行う会社など)の解体を加速し、格差の拡大と個人の社会的孤立の要因になってしまったように思われてなりません。 

一方で、現在は、共同体のポジティブな面を見直し、序列構造や束縛、排他性などのマイナス面を緩和しつつ、もう一度、コミュニティを再生していこうという大きな波が来ているように感じています。その中では、東京大学の斎藤幸平氏が提唱されているように、コモン(共用財)の再生という言葉が注目されるようになっていますが、労働者協同組合法が成立したことも、こうした「コモン」の再生の一つのように思います。

我々キフクトのメンバーは、個人で屋号を掲げて事業を営んでいる人、フルタイムの職に就いている人、NPOの活動に参加している人、長年企業に勤めてきた人など、働くということについての経験は様々です。小さい子どもがいる人、介護を必要としている親族がいる人、猫や犬と暮らしている人、住宅ローンを抱えている人。背負うものも、人それぞれに違います。
多様な背景を持つメンバーが、自覚があったかどうかはともかく、コモン再生の機運を敏感に感じ取って集い、キフクトの活動が始まりました。

造園・緑化で事業スタート

メンバーの一人が、個人事業として造園の仕事をしてきており、キフクトの運営のためのキャッシュ(資金)をつくるという意味でも、この分野から事業を始めるという判断はメンバーの中で自然なものでした。
ただ、造園と一口に言っても、その範囲や考え方も幅広く、用いる植物の種類一つをとってみても、メンバーの中で様々な意見が出されました。

「地域の生態系を守るためにも、在来種を積極的に植えたほうがいいと思う」
「外来種だって一つの地球に生きる生き物だと考えるなら、それを排除すべきだとは簡単には言えない」
「里山の植物を植えて、懐かしい風景をよみがえらせたい」
「いわゆるガーデニング用に生産される草木は、それなりの利点があるからたくさん使われている」

話し合いは、互いの考えの違いを顕在化させますが、それと同時に、「メンバーが遠くに見据えている場所は同じだ」という感覚も与えてくれます。

それは、「庭という人工空間であっても、その場所を豊かな自然の風景としてつくることは可能である。しかし、その豊かさと引き換えに、地球環境を破壊したり、快適さや便利さという人の都合で生き物の命を奪ったり、海の向こうの人々が劣悪な条件で働くこと容認したりすることは間違っている」という感覚です。

まだまだメンバーの間で議論は続いていますが、キフクトらしい庭づくりの輪郭は少しずつ見え始めています。

  • なんにせよ植物を植えるのは楽しい。景色が劇的に変わる

活動に当たり大事にしていること(意見反映の方法等)

結論を急がない、無理に決めない

様々なバックグラウンドを持つメンバー間で意見をまとめるのは容易ではありません。
庭づくりのコンセプトという事業の根幹部分ですら、というよりも、根幹に関わるような重要なことであればあるほど、結論に至るのは至難の業のように思えます。

毎月定例のミーティングでは、様々な議題について話し合いを行いますが、そこでの議事録を見直してみると、それぞれの意見を書き出しただけで終わっているケースも少なくありません。決められないので保留、これも保留、これも…。

決めなければ前に進められないという場面では、多数決というのはとても便利な方法です。しかし、キフクトでは、原則として多数決は採りません。決定によって得られるメリットより、勝ち負けがチーム内に生じて協力しようという意識に水を差してしまうデメリットの方が大きいと考えるからです。

全員が「まあ、それならいいか」と思える落としどころを探る。

どうしても妥協点が見えない時は、あえて、結論を出さず、継続審議とする。キフクトでは、このように意見反映を行っています。

こうしたやり方は、民主的な集団を維持するために、先人たちが編み出した知恵の一つであると考えています。もちろん、じれったく感じることもありますが…。

過程を楽しむ

設立前の準備会の中で、私たちは、「働く場所を愉快なものにしよう!」と盛り上がりました。だからといって、そういう素敵な目標を達成するために、今は我慢の時だといって、少数意見を押しつぶしたり、チームの人間関係を壊したりしてしまっては、全く愉快ではありません。

理想を実現しようとするなら、規模はどんなに小さくてもいいから、「いま、ここで」実現することが大切だと考えています。

楽しい場所は楽しく作らないといけません。そのために、以下のことを忘れずに進めていきたいと考えています。

  • 目標を定めて、そこに向かって一直線に突っ走るのではなく、自分たちができることを拾い上げて、足元から一つ一つ実現していくこと。
  • 早く目標を達成することが成功ではなく、その過程を、その一瞬を常に楽しめているかどうかを成功の基準に置くこと。

議論の場が、真剣勝負の様相を見せるときもありますが、ユーモアを忘れず、できるだけ笑いながら話し合いを進められるようにしています。

  • 意見がまとまるとは限らない。落としどころはどこに…

活動に当たり生じた困難や課題、それに対する対応

まずは仕事を作り出していくこと

地域のニーズに応えることが、労働者協同組合に期待されている一つの役割だと思います。しかし、キフクトは、たくさんの同業者がひしめき合っている市場に名乗りを上げました。

「キフクトを待望していた!」という人は潜在的にはいるかもしれませんが、少なくとも今のところは地域の人々からの目に見える反応はありません。仕事を作っていくことが、何よりも大きな課題となっています。

とはいえ、巧みな広告戦略と華麗なブランディングで差別化し、消費者の注目を集める、というようなことをやるつもりはありません。「ガンガン右肩上がりで成長していこうぜ」とも考えていません。生き残りをかけた競争に真正面から挑むのではなく、ニッチを探り当てるなど、したたかな戦術を求めています。

ネットワークを編む

連帯し、協力することが、今も昔も人間という種の基本の生存戦略です。

キフクトでは、大企業を頂点とするピラミッド型の企業集団でもなく、集客等の業務を肩代わりしてもらう代わりに手数料を納めるプラットフォームでもない、相互扶助や自治といった協同組合の理念に基づいた自前のネットワークを編んでいきたいと考えています。

現在、ほとんどのメンバーはそれぞれに他の生業を持っており、結果として、キフクトのゆっくりとした歩みを可能にしています。リスク分散という意味だけでなく、ネットワーク構築という面でも、複数のキャリアを同時並行的に形成していくことは我々の労働者協同組合活動にプラスになるだろうと期待しています。

  • 現場では協力が欠かせない。声を掛け合えば作業は進む

今後の方向性

庭の在り方を多様に

例えば、雑草が生えた庭は、「管理が行き届いていないだらしない庭」と評価されがちですが、雑草が土壌を保護し、他の生き物とのネットワークのなかで大切な役割をしていることを考えれば、雑草は除去することが唯一の選択肢であるとは言えません。

見栄えがするとか、管理コストが低いとか、上から見下ろして評価するような視点ばかりではなく、他の生き物のこと、目に見えない微生物のこと、地球のこと、未来の世代のことなど、視野を広くして、庭を捉えなおし、これまでの価値観に縛られないガーデニングを提案していきたいと考えています。

これは、そのまま「働き方」、「生き方」の比喩としても、十分通用するのではないかと思います。

キフクトに込めた思い

今の企業が求めている、自己啓発を怠らず、競争に果敢に挑み、常に結果を出し続けていくというキャリアはかなりしんどいでしょうし、誰にでも向いているというものでもありません。

無理な成長を強いられず、それぞれの違いが受け入れられる、そのような職場があってもいい。

労働者協同組合が「働く」ことの選択肢の一つになれば、若い人たちも少し安心できるのではないかと思います。

「設立趣意書」

キフクトの名には、「起伏」ある世界をつくりたいという願いを込めました。
それは、単に物理的な起伏だけを指しているわけではありません。標準化、平準化の圧力がかかり続ける社会の中にあって、「標準」から外れるものを「規格外」として排除するのではなく、凸凹があることを大事にする。
すなわち、「あるがままを受け入れる」、「目の前の人の可能性を信じる」という覚悟を示しています。

このように、キフクトの設立趣意書には記してあります。

人間の底力と出会いが生み出す可能性を信じる立場に立つのが、協同労働と考えています。

キフクトは、この働き方に関心を持つすべての人と一緒に、凸凹を平らに均そうという力に抗っていきたいと思います。

  • 作業を終えて。違いこそが力だいうことをかみしめる幸せな時間

基本情報

法人名  労働者協同組合キフクト
事業所の所在地  神奈川県大和市下鶴間1859-33
設立  2023年4月
事業内容  造園・緑化
組合員数  7人
組合員の年代別構成  40代〜60代
組合員以外の就労者  0人
売上高  300万円(年間見込額)
出資1口の金額  1万円
出資の総口数  60口

(令和5年8月末現在)