労働者協同組合きょうどう(令和5年7月設立)

キュア(治療)からケア&コーチ(指導)へ 変わりゆく歯科医療の未来
労働者協同組合で「健全な地域医療」と「働きやすさ」を実現

労働者協同組合きょうどうは、日本で初めての労働者協同組合による歯科医院です。現在、東京都・千葉県・埼玉県で4つの歯科事業所(代々木・松戸・船橋・越谷)を展開しています。医療現場での働き方の変化や技術進歩・高齢化など社会の変化に伴う歯科医療の未来を見据え、歯科衛生士や助手、職員、さらには患者さん自身も共に参加する歯科医療の新しい形を追究しています。

これまでの活動の経緯

地域のための歯科医療と自覚ある働き方をめざし
医療法人社団を設立

学生時代から学生自治会の立ち上げや活動に参加し、一人の人間としての自立と対等・平等な人間関係、社会との関りについて関心が深かった現在の代表理事は、その思いを歯科医療のフィールドで実現したいと、医療法人に勤務する傍ら、歯科部門の発展に寄与してきました。

ある時、スペイン・バスク地方のモンドラゴン協同組合とマドリードの労働者協同組合歯科を訪問する機会を得て、労働者協同組合で歯科を運営できることに感銘し、「すべての医療従事者が働く者として守られる組織が必要」との思いを新たにしました。

2010年の退職を機に、同じ職場で思いを共有していた現在の副理事の歯科衛生士はじめ4人が集まり、きょうどう歯科の前身となる「きょうどう歯科・代々木院」の立ち上げを決意しました。立ち上げにあたっては毎月会議を開き、どんな小さな疑問も不安も残さないよう、丁寧な話し合いを継続しました。

待ち望んだ「労働者協同組合法」の施行
医療法人社団から労働者協同組合へ組織を改編

2011年2月に「医療法人社団きょうどう」を設立しました。当時の日本には労働者協同組合の設立や運営・管理などについて定めた法律がなかったこともあり、現在の労働者協同組合法に準ずる方針となる「きょうどう五原則」を独自で策定し、「患者さん、スタッフとその家族、自分たちの医院を守るだけでなく、地域や医療保険制度も守る」という意志を貫いてきました。

そんな医療スタッフの気持ちに賛同した患者さんや地域の方々を含め、「きょうどうの会」という任意団体も誕生しました。きょうどうの会は、患者さんはもちろん、誰でも参加できる学び合いの会です。この活動が、その後の原動力になっているといっても過言ではありません。

やがて2020年12月に労働者協同組合法が成立し、2022年10月にようやく施行され、紆余曲折を経て2023年7月に「労働者協同組合きょうどう」となりました。
ただ、「きょうどう歯科」にとっては、組織の形態が変わってもめざしてきたところはなにも変わっていません。むしろ、「ようやく法律が自分たちの思いに追いついてくれた」という表現が適切だったかもしれません。

  • きょうどう歯科の外観とロゴマーク

活動に当たり大事にしていること(意見反映の方法等)

共に働く仲間として誰もが平等

労働者協同組合きょうどうが大切にしていることはまず、「すべてのスタッフが自覚的労働者として働ける」ことです。もちろん医療行為においては、医師ができること、医師の監督下で歯科衛生士ができること、といった法律で定められた業務範囲を遵守するのは当然ですが、共に働く仲間としては、自覚的労働者として、一人ひとりが積極性を有しながら互いに対等でフラットな関係を維持し、働く仲間の誰に対しても平等であり、力関係を強要しないつながり方を大切にしています。

次に、「歯科医療を通じて安心して暮らせる地域づくりの役にたつ」ことを大切にしています。歯科医療は歯科医師のみで成り立つものではありません。現代の高齢化・少子化の時代においては歯科疾病の予防や治療後のケア・メンテナンスなど、歯科医師も歯科衛生士も助手も技工士も事務職員も、歯科医療に携わるすべての人たちが患者さんのために共に協力しあえる組織を構成していくことが不可欠だと考えています。

  • 歯科医師と歯科衛生士 打ち合せの様子

思いを共有できる「きょうどう五原則」

そんな思いを共有するため、組織運営の理念を明文化した「きょうどう五原則」は、職場としての歯科クリニックを守るだけでなく地域や医療保険制度も守るという決意が込められています。

【きょうどう五原則】 
一. キュアからケアへ、患者さんに寄り添い、患者さんの医療を受ける権利を守る
一. 職員、職員家族、きょうどうの会・会員・協力債権を守る
一. 歯科医療保険制度を守り充実させるとともに、「労働者協同組合きょうどう」を守る
一. 地域の健康づくり・街づくりに積極的に参加する
一. 地域市民の美味しい食事を楽しむ権利が守られ、平和な地域社会を目指す

チームワークの構築と歯科経営への意識向上

代表理事が病院勤務時代からずっと考えていたのは「医療従事者が働く人としてちゃんと守られる組織が必要」ということです。ともすれば医療従事者には奉仕の精神が求められますが、それだけで持続は不可能です。また多種多様な専門職が働く組織では従来のシステムや考え方を変えることはなかなか困難です。

そこでお手本にしたのがスペインの医療系労働者協同組合でした。大きな組織でなくても働く人が主体となる医療機関の設立・運営が可能であるのはなぜかについて学び、歯科医療の労働者協同組合をめざしました。

話し合いでは一緒に働く仲間たちと思いを共有することに最も時間をかけました。もともと、なんでも率直に言い合える環境でしたが、なぜ今あらためて労働者協同組合をめざすべきかについて何度も話し合いました。

医療の分野で労働者協同組合は成り立つのか?責任が大きくなるのでは?雇用される立場でいたい…など、ここでも率直に意見を言い合える関係性が発揮され、本音で語り合うことができました。この過程で互いに経営への意識も育った気がしています。

  • 全4院所の組合員による定例会議の様子

活動に当たり生じた困難や課題、それに対する対応

働く人が主体となる意義について 時間をかけて追究

なぜ働く人が主体であるべきなのか。なぜ労働者協同組合なのか。ここに医療現場の課題に対する労働者協同組合きょうどうの展望があります。

残念ながら医療の世界にはまだ特有のピラミッド構造が残っています。歯科医療も然り。歯科治療の常識や習慣は大きく変化を遂げているにも関わらず、医療従事者の考え方が技術の進化や社会変化にそぐわないことも多い。だからこそ今、どのような歯科医療を提供すべきか、そのためにはどんなシステムにすべきなのか、それをみんなで考えました。

歯科医療の社会的変化と医療現場で働く人の意識変革

キュア(治療)からケア&コーチ(予防・メンテナンス・指導)の時代、患者さんと長期的に寄り添う仕事は主に歯科衛生士が担います。治して終わり、痛くなってから歯医者に来る、のではなく、患者さんを生涯通じてケアしコーチするチーム医療が求められる時代なのです。

チーム医療ではすべてのスタッフが臨機応変に判断し動くことができなければならず、そのためには一人ひとりが主体でなければなりません。誰か一人が頑張るのではなく、それぞれが役割を分担し、得意なことを活かしつつ、それを患者さんやスタッフ、組織、そして地域に還元していくことが大切なのです。

  • キュア(治療)からケア&コーチ(予防・メンテナンス・指導)へ

出資の意味と必要性を話し合い スタッフの意識も変わった

労働者協同組合は組合員が資金を出し合うこと(出資)を基本原理としています。資金を出すということは運営に関わるということです。

歯科衛生士や事務職員として働く人にはハードルの高い役割に思えるかもしれません。しかし出資を担ったことにより、一人の職員としてどう働くか、患者さんに対してどうしたら良い医療になるかを主体的に考えることができるようになりました。

これまで以上に、歯科衛生士や事務業務など、それぞれのスペシャリストが互いに連携し、尊重し合いながら働くことができるフラットな組織として機能し始めています。

今後の方向性

患者さんのため 働く私たちのため
労働者協同組合で付加価値の高い歯科医療と医院運営をめざす

患者さんの幸せは私たちの幸せ。いつでも、いつまでも、安心して来院してもらえるよう、労働者協同組合きょうどうには医院を健全かつ継続的に運営していく勤めがあります。

そのため、職員同士のより良いコミュニケーション、各事業所の管理運営の自立化、法人全体で共に育ちあう教育や研修の推進、新人もベテランもレベルアップをめざすモチベーションの育成、医療技術向上のための活動検討会および組合員総会の開催など、さらに管理運営を改善していく予定です。

また、労働者協同組合きょうどうの誕生を支えてくれた任意団体きょうどうの会との連携もより緊密にし、子どもたちの命と健康を守る市民活動や社会保障の充実を求める運動などの社会的活動もこれまで以上に推進していこうと考えています。労働者協同組合という働き方と活動が地域のプラットフォームになっていければ、と願っています。

歯科医療従事者としての願い「平和な社会を守りたい」

おいしく食事ができ健康に過ごす歓びを享受できるのは、社会が平和であってこそ。昨今の世界の情勢には、歯科医療に携わる者として、一人の人間として、深く心を痛めています。

きょうどう歯科では東日本大震災以来、子どもたちの乳歯保存と歯の健康チェックを継続しています。この活動は今後も、子どもの命と健康を守る市民活動として継続していきます。加えて、「保険で良い歯科医療を」の運動をはじめ、地域の町内会や商店街、住民の皆様の活動にもこれまで以上に積極参加し、地域のさらなる活性化と平和な社会を創造するお手伝いをしていきたいと願っています。

基本情報

法人名  労働者協同組合きょうどう
事業所の所在地  東京都渋谷区代々木1丁目32番2号宮崎ビル2階
設立  2023年7月
事業内容  歯科医院の経営
組合員数   23人
組合員の年代別構成  20代〜70代
組合員以外の就労者  6人
売上高  1億5000万円(2024年度見込)
出資1口の金額  50万円
出資の総口数  23口

(令和6年9月末現在)