「労働者協同組合は力強い選択肢」

認定NPO法人コミュニティ・サポートセンター神戸
理事長 中村 順子 氏

阪神・淡路大震災を契機に生まれたボランティアグループ「東灘地域助け合いネットワーク」(現NPO法人東灘地域助け合いネットワーク)を母体に、「自立と共生」に基づくコミュニティづくりを支援するサポートセンターとして1996年10月に発足した「認定NPO法人コミュニティ・サポートセンター神戸」(以下、CS神戸)。そのリーダーとして長年奮闘してこられた中村順子理事長に、協同労働を実践する労働者協同組合への期待とその取り組みについて伺いました。

「自立と共生」を理念とした地域社会を目指す

平成7年の阪神・淡路大震災の時、神戸市東灘区に住んでいたんです。震災前の十数年、高齢者や障害者の在宅支援をするボランティアグループで活動していましたので、こんな状況の時こそ何とか地域のために役に立ちたいと思って、震災発生から2週間後に「水くみ110番」を立ち上げました。水くみから始め、がれきの撤去や仮設住宅支援、家事支援や移動支援を行いました。毎日20~30人のボランティアが外部から来てくれましたが、中学校区2つぐらいのエリアしかカバーできませんでした。しかし、ニーズは水汲み、がれき撤去等1日20件以上あり、こういうグループをいくつも拵えないと神戸は復興しない、と思い地域づくりの団体を創出する中間支援組織の構想を持ちました。折しも全国の仲間と中間支援研究を始めており、先進国イギリスへ視察に行くことになりました。イギリスでは、政府とボランタリセクター間でコンパクト(契約)が結ばれ、政策的な位置づけが結ばれた頃でした。中間支援組織の先輩たちが活動している様子も学びながら、これを神戸でやろうと決意し、1996年にCS神戸を立ち上げました。

CS神戸では、まず自分で考えて自分で行動できる団体になる、だけど独りよがりになってはいけない、ということで、他者の強みも生かし自分の弱みをカバーする、一番大事なコンセプトとして「自立と共生」を共通の価値にしながらやってきました。地域調査から講座の企画、仲間づくり、そしてグループ化をして事業を実施し評価をするPDCAサイクルを自ら回していく。震災後にもっともっとこんな団体を作らないといけないと思ったように、今もCS神戸の実績成果指標は、いくつ団体が立ち上がったか、何人新しい仲間ができたか、これを指標にしているんです。だいたい年間50団体ぐらいが創出されています。

今、CS神戸で最も力を入れているのは、常設の居場所づくりです。週3日以上開いている、誰がいつ行ってもいい、そしてそこに行けば自分の特技も叶えられる。このような居場所が地域の中にたくさんあることによって、今つながっていない人たちが新たにつながり、自分の能力も発揮でき地域のために何か新しいことができる。自分自身を開発できるんです。

法制化の意義と労働者協同組合への共感

協同労働(労働者協同組合の働き方)を身近に感じ始めたのは、1980~1990年代のワーカーズ・コレクティブの運動です。私も在宅介護のボランティアをしていて、ずいぶん交流がありました。女性のシャドウワークを表に出し事業化し社会化する、そこにすごく共感をしたんです。

改めて今注目しているのは、やはり労働者協同組合の法律ができたということです。

かつて阪神・淡路大震災から数年、特定非営利活動促進法(以下、NPO法)ができるまでは困難なことが多くありました。事務所を借りたり電話を引いたりといった契約ごとが、全部代表である私の個人保証になるのです。これだけ公のことをしているのに、なぜ私の個人資格でしか契約できないのか。法人格がないということは、つまり社会的に一人前ではないということ。とても苦労しました。そのためNPO法の成立を熱心に推進した経験もあって、法人格の有無にとても敏感になっていると思います。

その意味で、労働者協同組合がやっと法制化されたことはすごく嬉しかったですね。ちょうどその時に、兵庫県で斎藤幸平氏(現、東京大学大学院准教授)を招いた勉強会があり、労働者協同組合が今の社会の矛盾を解消するかもしれない、という期待を持ちました。

この法人格は共感レベルが高いのですが、みんながお金と力を出して、みんなで考えて経営するという、口で言ったら易しいけど実践するのは一番難しいですよね。でも、そのプロセスが今の社会にとって大事で、繰り返し意見交換しながら次第にベクトルが合い、みんなが応分の役割を担いながら応分の責任に通じ社会課題に対応する、正に民主主義の基本だなと思っています。

実践事例から学び、懸命に伴走して支援する

CS神戸では、広島市の協同労働の事例も学ぼうと、現地の協同労働団体を招いたセミナーも開催しました。住民主体の共助や地域づくりの活動を、協同労働を軸にして生み出していこうと、広島市が積極的に取り組んでいますよね。実際に活動している人の事例紹介・報告を聞くと多くのことが伝わってきます。私たちも(後述の)実践塾では必ず事例を取り入れて、その現場に行き、実態をいかに感じ取るかを大切にして、講義だけの研修は一切しません。実践から学び、一生懸命伴走して支援をする。ここが私たち民間の中間支援機関であるCS神戸の特色です。

その後「協同労働ミニワーカーズ実践塾」を開講しました。令和5年春の1期目に15名ぐらい、同年秋の2期目も13名くらいでしたが、いずれも定員10名より多くの方が参加されました。シニアが8割、問題意識が非常に高い方々です。何か社会のために役に立ちたいという思いと最低賃金が保証される働き方ができる、生きがいと収入、ここに強い参加動機があると思います。

1期生の中には、実践的な講義を通じて講座の期間内で団体を立ち上げるステージまで進んだ方もいらっしゃいました。令和6年度は、年間通しで全10回の講座を行い、最後に団体が立ち上がっていくというプログラムに変えたいと思います。

労働者協同組合の誕生

10年ほど前に中間支援として、神戸市内の高齢者施設に、二人一組で2.5時間3,000円と交通費支給の有償ボランティアの仕組みを提案しました。1か所始めるととても評判がよく、市内15カ所ぐらいの施設と契約ができ、担い手のグループを立ち上げてきました。ところが、コロナ禍になるとどの施設も全てのボランティアが入室禁止になり、その間担い手グループの皆さんもバラバラになってしまいました。

その後、コロナが5類に移行し、ボランティアも施設に行ける条件が緩和された時に、今までの有償ボランティアではなくて、仕事としてその部分を業務委託する形で今後取り組みませんかと施設に提案しました。10時から14時までの4時間を一人1時間1001円(令和5年度兵庫県最低賃金)、加えてグループの運営協力費もくださいということで協議したところ、週3回から頼みたいということになりました。一からのグループづくりが必要になりましたが呼びかけや説明会を重ね、やっと3人の核が出来、施設と委託契約を結びました。

こうして令和5年12月に設立されたのが「助け合いケア労働者協同組合ヘルパント」(以下、ヘルパント)です。施設では担い手が足りず困っておられることも多く、市民ができる部分の業務を委託型方式ででき、事業の可能性をすごく感じております。

また、労働者協同組合をつくるに当たって、生きがいや、やりがい等、創造性につながるクリエイティブな部分をどう組み込んでいくのかはとても大事ところです。ヘルパントでは、施設内のデイ補助のみではなく、施設利用者が在宅生活で必要な支援があったら、そこにも別枠で行く、それもちゃんと組合員の仕事にしようと企画しています。利用者さんも施設で顔見知りの同じ人が家に来てくれたら安心、というのはあると思います。

共通の価値観を持ち、寄り合う-労働者協同組合への期待

その他にも、植栽管理や文化事業、町の先生、フードロスをなくす取り組み、地域食堂などが労働者協同組合の設立を構想しています。一つ一つの団体だけではできない、でも共通の価値観でつながり、いろんな団体が更に新しい価値を創出する、これは面白いです。そこに中間支援組織としてどのように私たちが支えることができるのか、これから挑戦していきたいと思っています。また、企業との連携も大切です。活動を通して、生活の最も困りごととなるところと向き合っていますが、会社の中ではなかなか話せなかったり、会うことができない方々とも対話ができるので、企業の方々が副業として参加されれば新しい価値観の創造や自己成長にもつながります。

労働者協同組合は市民が主体的に社会に関わるきっかけとなる力強い選択肢だと思います。これで全て解決するとは思いませんが、有力な選択肢が新たに法制化されて、注目を浴びるようになりました。特に高齢化が進んだ日本で、市民同士が助け合う世界に誇る互助型モデルを団塊の世代中心に構築し、貢献したいと強く思います。