労働者協同組合コトノワ(令和5年6月設立)
子どもたちの良き伴走者として つながりの力で子どもたちに明るい未来を
労働者協同組合コトノワは、熊本県玉名市で障害児通所支援事業および保育所等訪問支援事業を運営しています。様々な環境におかれている子どもたちが安心して過ごせる場所を提供し、人とのつながりを大切にすることで、子どもたちが豊かな人生を送ることができるよう様々なサポートを実施しています。
これまでの活動の経緯
地域に残したい事業を受け継ぐ
労働者協同組合コトノワの始まりは、廃校となった小学校で放課後等デイサービス事業を行っていたNPO法人に事業閉鎖の話が持ち上がったことがきっかけでした。コロナ禍の経営難という致し方ない理由ではありましたが、地域で活動してきた人々や保護者から「なんとか事業を残せないか」という強い要望があがりました。
その声を受ける形で、当時そのNPO法人で児童指導員として働いていた現コトノワ代表理事に事業継承の相談があり、地域や保護者の要望に応えるため事業を引き継ぐことになりました。
- 廃校の空き教室を活用
組合員としての出会いは子育てと生協
まずは、共に働く仲間探しです。ところがなかなか集まらず、最終的にたどり着いたのが同じ幼稚園に通う「ママ友」でした。生活協同組合の組合員という共通点もあり、子育てを通じて食の安全や環境問題、福祉など「いのち」に関わる問題に強い関心を持つ、いわば同志です。最初は3人でのスタートで心細い限りでしたが、子どもたちのため、地域のため、力を合わせることになりました。
子どもたちのためなら「やってみよう!」
NPO法人から事業を引き継ぐには、まず事業の受け皿となる新たな法人を設立する必要がありました。しかし誰も法人設立や事業運営の経験などなく、何から手を付けてよいのかわかりません。そんなとき、NPO法人の代表から労働者協同組合という選択肢を勧められ、労働者協同組合法の特集記事が掲載された冊子を手渡されました。
その記事のタイトルは、「『はたらく』をつくる。みんなでつくる」。労働者協同組合の特徴や労働者協同組合法の解説を読み進むうち、「なんかいいね」「できそうだね」と皆、心を動かされました。
もともと3人とも生活協同組合の組合員であったため、「協同組合」の基本的な考え方は理解していました。「生協」(生活協同組合)はみんなで出資・利用・運営を行う協同組合、それに対して、「ろうきょう」(労働者協同組合)は、出資・意見反映と運営・自らが働く協同組合です。自分たちがやりたい仕事と働き方を、自分たちでつくっていけるイメージでした。「これなら私たちの価値観に合うね」「とにかく子どもたちのためにやってみよう!」という思いで、法人設立に向けての準備が始まりました。
子育てと仕事を両立しながらの設立準備は思った以上に大変で、直接会うことができるのも休日だけです。それでも自分たちで調べられることはどんどん調べ、意見を出し合い、約1年かけて、令和5年5月、ようやく「労働者協同組合コトノワ」の設立にこぎつけました。
活動に当たり大事にしていること(意見反映の方法等)
女性が働きやすい職場をつくる
最終的に、コトノワは7名の組合員で設立されました。現在、組合員は12名になりましたが、そのうち11名は女性で、代表も含め9名が前身団体のNPO法人からの移行組です。その12名のバックグラウンドは様々です。福祉の現場、教育の現場、一般企業など多種多様な職場経験を持つ女性たちがたくさん集まり、それぞれの経験を活かしていきいきと働いています。自分たちが働く職場を自分たちで作り上げるため、どんなに忙しくても話し合いを重視し、活発に意見交換をしています。
まだ全員が納得できるほど、たっぷり充分な対話時間を確保することはできていませんが、SNSも積極的に活用しながら滞りのないコミュニケーションを心がけています。子育て中のお母さんや子育てを終えた女性たちなど、家庭での子どもや家族との関わり方は人それぞれですが、誰もが働きやすい環境になるよう試行錯誤しています。
ひとりで抱え込まない 仲間を頼る
労働者協同組合としての運営はNPO法人の頃とはやはり異なります。労働者協同組合になってからは、なによりも「仲間同士の関係が大きく変わった」と感じています。NPO法人の頃は代表が全てを抱え込み他の職員は運営について全く知らないような状況だったのが、労働者協同組合になってからは運営についてもみんなで共有できるようになりました。
そのおかげか、以前よりお互いにどんなことも話しやすくなりました。また意識して声を掛け合ったり、意見を聞いてみる、ということも互いに心がけています。誰か1人が抱え込むのではなく、困ったこと、悩むことはみんなで共有すればいい。仲間を頼ればいい。そんな柔らかな雰囲気が、組織全体を包み込んでいます。
想いの温度を保ち続ける
労働者協同組合を立ち上げてから、同じ業種の人たちと交流する機会も多くなりました。そんな中、自分たちで「やりたい」人たちが集まって立ち上げた労働者協同組合と企業などの一般求人情報で採用された人たちとは気持ちが違うと感じる場面もありました。
同じ想いでつながった仲間たちは何かあたたかい感じがします。とはいえ、事業を継続していくには、仲間だというだけでは解決できない課題にも直面するかもしれません。でもどんなときも、立ち上げたときの「想いの熱さ」「子どもたちのため、地域のため」という温かな気持ちが一番であることに変わりはありません。
活動に当たり生じた困難や課題、それに対する対応
想いだけでは運営できない 運転資金の確保も慎重に
法人設立後は事業所の開所に向けての準備も大変でした。行政手続きや銀行口座開設など、煩雑な様々な準備を経て令和6年4月、障害児通所支援事業所「そらとも」を開所しました。地域のニーズや経営の持続性を考慮して利用定員を増やしたのですが、NPO法人の頃に利用していた児童をはじめ広報活動や口コミの成果で新規申し込みも思った以上に多く、開所当初から定員に達してしまいました。
- 「そらとも」空のように色んな表情をみせる子どもたちが、ありのままの自分でいられる居場所となるように
NPO法人の時に勤めていた有資格者の職員も引き続き労働者協同組合の組合員として働くことが決まり、事業的には当初から安定していたのですが、事業収入はすぐには入ってきません。もちろん組合員の出資金だけでは足りないため、前身であるNPO法人から借り入れをしたり、日本政策金融公庫から国民生活事業の融資を受けたりして、何とかしのぐことができました。
円滑なコミュニケーションと働きやすい環境のために
事業が始まると、今度は、フルタイムで働く組合員とパートタイムで働く組合員とのコミュニケーションが課題になりました。日々のスケジュール調整や話し合いの工夫、働きやすい環境を整えるための仕組みを試行錯誤し、情報共有と話し合いは常にSNSと対面の両方で行うことになりました。リアルタイムでのやりとりと文字に残すやりとり、必要な時に必要なコミュニケーションを実現できるよう、少しずつひとつずつ、自分たちらしいコミュニケーションの方法を作り上げていきました。
でも、まだまだ課題はこれからです。これからも、働く環境や仕組みについて互いに話し合い、理想に近づけるようチャレンジを続けています。
- 「春探し」自然と共に育む活動
今後の方向性
子どもたちの未来に向けて サポートする伴走者に
労働者協同組合コトノワはまだ立ち上がったばかりで手探りの状況ですが、根底に流れる想いはひとつ。保護者や地域の人たちと共に、子どもたちが自分たちの思い描く未来を生きられるよう、障害や発達の特性を理解し寄り添う伴走者を目指しています。職員一人ひとりのこれまでの経験や知識を活かし、専門性をより高めるための研修や学びの機会を増やし、子どもたちが幸せに暮らせる地域づくりに貢献していきたいと考えています。
子育ては親や家族が抱え込むものではありません。多くの人たちが関わり、つながり合うことで、子どもたちの成長を支えていくのです。労働者協同組合も子どもの成長と同じかもしれません。同じ想いをもつ人々がつながり、支え合い、共に生きていく。試行錯誤しながら自分たちにとってより良い方法を見つけ、より良い未来を創造していく。
労働者協同組合という形は、未来に向かっていく子どもたちをサポートし支える「伴走者」にふさわしい事業組織のあり方だと考えています。
- 放課後等デイサービスでの療育の様子
基本情報
法人名 労働者協同組合コトノワ
事業所の所在地 熊本県玉名市上小田371番地
設立 2023年6月
事業内容 児童福祉法に基づく障害児通所支援事業・保育所等訪問支援事業
組合員数 12人
組合員の年代別構成 40代〜60代
組合員以外の就労者 0人
売上高 1,600万円(2024年度見込)
出資1口の金額 5万円
出資の総口数 12口
(令和6年10月末現在)