栄町労働者協同組合(令和6年7月設立)

古くて新しい書店のかたち
自分たちに必要なものは、自分たちで作る

2024年10月1日、沖縄県那覇市の栄町市場内に「栄町共同書店」が開店しました。研究者・アーティスト・編集者の6人から成る「栄町労働者協同組合」が運営するシェア型書店であり、日本で初めてとなる労働者協同組合の書店です。古書の販売(古物商免許取得済)や商店街の活性化とまちづくり、教育・学術及び文化の振興に資する事業も行っており、市場や行政だけに頼らず「自分たちに必要なものは、自分たちで作る」経験を広めることをめざしています。

これまでの活動の経緯

「街の書店」を残す方法を模索

街の書店が次々と姿を消しています。沖縄も例外ではありません。そんななか、「書店という場所」を残す取り組みとして「シェア型書店」という形態が登場し始めました。これは店の本棚を一箱単位で「箱店主」に貸し出し、その利用料で書店の運営経費を賄う仕組みです。街の書店の火を絶やすまいとする箱店主に支えられて存立する書店です。

栄町共同書店プロジェクト誕生のきっかけは、東京・高円寺の「本の長屋」というシェア型書店です。そこに参加していた沖縄生まれ東京在住の箱店主と書店の運営スタッフが出会い、沖縄でシェア型書店をつくる計画が生まれました。

ネット世界が拡大する現代、書店が消えていくのは抗いがたい流れかもしれません。また、シェア型書店が既存の書店の機能をそのまま代替できるとは考えられません。シェア型書店の棚主はあくまで一般の人であり、プロの書店員のように豊富な経験や仕入れルートも持っていません。しかし、シェア型書店は、皆で少しずつ負担を分かち合い、「自分たちに必要なもの(街の書店)を自分たちで作る」という理念を実践する稀有な場所となり得るはず。書店に限らず、「社会に必要な機能が欠けている時にそれを自分達の力で補っていくという意味での『自治』の精神を再興する旗印になるのではないか」と考えたのが始まりです。

労働者協同組合とシェア型書店は良き相性
クラウドファンディングも活用

市場を介した本の流通が厳しさを増す中、代替機能を果たす運営法人格として「市場でも行政でも供給できない、だが社会にとって必要なものを供給できる」労働者協同組合を選んだのは自然の成り行きでした。実際に事業を始めてからも、シェア型書店という業態と労働者協同組合法人との相性の良さを実感しています。

シェア型書店は様々な背景を持つ箱店主さんやお客さんを受け入れなければ成立しません。そうした場づくりには、手間と時間はかかりますが、1人のオーナーよりも対等な複数人の合議による意思決定が強みを発揮することが多いと考えています。

物件改装などの初期投資と1年目の運転資金の調達にはクラウドファンディングを活用し、最初の箱店主集めと並行して進めました。クラウドファンディングは、自分達のプロジェクトが社会に必要とされているかどうかを知る試金石としても有効で、目標額を上回る2,918,500円が集まりました。

栄町市場そのものが共同性を象徴

経営シミュレーションで家賃や立地の条件を絞り込んだ結果、栄町市場などいくつかの選択肢が上がりました。栄町市場を選んだのは率直に言えば直感ですが、プロジェクトを進めるうち、この場所が栄町共同書店を通じて生み出したいと考えていた共同性を体現するにふさわしい場所であることが明確になってきました。

市場には数多くの小さな店舗がひしめいており、それが1つの空間として成立しています。こうした市場のあり方はシェア型書店のあるべき姿であり、3坪の書店だけでは表現できない共同性を体現しているようにみえました。

  • キャプション

栄町市場からの学び

栄町共同書店を構成するひとつひとつの箱店は箱店主の占有空間であるものの、同時に栄町共同書店という共有空間の一部でもあります。栄町共同書店が1つの書店として成立するには、既存の新刊書店・古本屋とは異なる方法で統一性を確立する必要があります。これはとても難しいことですが栄町市場を参考に挑戦しています。

栄町市場は沖縄の中でも異色な地域で、いまだに昔ながらの共同性が息づいていると言われています。それは市場のかたちが業者同士の相互扶助とある程度の干渉を前提としているからかもしれません。また、市場を維持・再興するための過去の取り組みの蓄積もあります。小さな店舗が密集する市場には水道やトイレなど共同で利用・管理する空間が多くあり、栄町共同書店もトイレや水回りは共同のものを使用しています。

栄町市場には個性的な店がたくさんあります。各々が市場の一部であることを強く認識し、カレーはカレー屋、コーヒーはカフェと、各々が特化・分業することで、市場全体としての魅力を最大化しています。今後、さらに栄町市場の取り組みについて学び、自治や協同、共生について、生きた学びの場を作り出していきたいと考えています。

  • 栄町市場の一角

活動に当たり大事にしていること(意見反映の方法等)

情報共有の徹底

栄町労働者協同組合メンバー6人のうち3人が沖縄在住、3人は東京在住です。直接顔を合わせて話をする機会は多くありません。これは話し合いを重視する労働者協同組合にとって大きな弱点になり得るため、情報共有については徹底するよう心掛けています。

ミーティングは月2回、基本的にはオンラインを活用します。うち1回は経営に関する情報共有と意思決定、もう1つは積み残した議題と選書会議です。さらに日常的な業務連絡は全員が参加するSNSグループ上で行います。基本的には各業務の目的・予算・スケジュール等を全員で決めた後は担当の判断で進めます。ただし、進捗状況は細かく共有し、判断が必要な場合にはその都度メンバーに意見を求めて決めています。

日々の売上や在庫状況、中長期的な経営情報は全てオンラインストレージ上で共有します。お金に関することはメンバー間でも得意・不得意があるので、分かりやすい経営シミュレーターを自作して運用し、全員が経営者としての意識を持つよう工夫しています。

  • 栄町労働者協同組合の組合員。沖縄在住3人、東京在住3人で仕事を分担している。

利用者(箱店主)を運営に巻き込む

シェア型書店の主な利用者は、棚を借りる箱店主と本を買いに来るお客さんです。なかでも箱店主は棚の利用料金を払う消費者であると同時に、店の棚づくりや店番ボランティア等を通じて部分的に店の運営に関わります。
箱店主には、なるべく店に足を運んでもらい、こまめな棚の本の補充・入替に加えて、他の箱店の陳列や書店全体の雰囲気を総合的に見たうえで自分の箱店を工夫してもらうようにしています。そうした心がけが書店全体の魅力に直結するのです。毎日5人ほどの箱店主が来店し、棚の様子を確認しています。

店番ボランティアも重要です。店番ボランティアは、他の箱店主やお客さんとの会話が生まれていつもと違った目線で自分の棚や店と向き合えるようになります。開店2か月目から試行的に導入している段階ですが、毎月コンスタントに3~4人の箱店主が自発的にボランティアに協力してくれています。若者など様々な人が箱店主になれるように、店番ボランティアに入った人には箱店料にも充当できる少額のチケットを発行しています。

さらに月に数回程度、店か箱店主がイベントを開催して交流の場を設けています。開店後の数か月は「栄町共同書店魅力化作戦会議」に力を入れました。都内のシェア型書店の店づくりの情報を共有したり、箱店主の意見を聞いたりしながら、一緒に活動できる範囲を増やしています。最近では、「取材部」と称して箱店主同士でインタビューし合う活動も自主的に生まれました。1つの場所を運営していく経験を通じて、皆で労働者協同組合という組織のあり方への理解を深めていきたいと考えています。

  • 栄町共同書店外観。集合住宅の一角に位置する。店頭にはベンチとパラソルを置いている。

活動に当たり生じた困難や課題、それに対する対応

全員が副業 遠隔地在住メンバー半数ゆえの弱点への対応

運営メンバーは全員本業を持ち副業として書店運営に関わっているため、割ける労力には限界があります。日々の店番に加えて、箱店主さんの対応、イベント企画や新刊の仕入れなど仕事量は決して少なくありません。そこで、比較的柔軟に働けるメンバーに負担が偏らないよう、各自の負担は可能な限り全員で把握できるように気をつけています。

また、遠隔地に住むメンバーはすぐに現場に駆け付けることが出来ないため、数か月先の予定を見越して計画を立て、開店スケジュールに穴が開いたりイベント準備が滞ったりしないよう互いにカバーしながら運営しています。どうしても手が回らない部分は率直に箱店主達の協力を求めます。

シェア型書店には、場を維持するための絶え間ない仕掛けづくりと、アマチュアが書店としての魅力を向上させるための努力という特有の忙しさがありますが、箱店主の力を借りられるのは大きな強みです。

本を売るのは難しい 箱店主の力を借りて工夫

栄町共同書店はシェア型書店のため、必ずしも本が売れずに経営が立ち行かなくなるわけではありません。しかし、各箱店の売上は箱店主の満足度に直結するため本を売る努力は必要です。そこで箱店ごとの売れ行きがリアルタイムで把握できるシステムを活用し、売れやすい工夫を提案したり、来店客との会話の中で目を向けてもらえるよう促したりしています。

しかし本質的な課題は、なるべく多くの人に本を手に取ってもらえるようにすることです。ネット上に無限の娯楽が広がる中、紙の本を買って読んでもらうためには、現代社会を生きる上で自然に抱く疑問や違和感を深く掘り下げてくれるような「良書」を的確に選び、限られた店舗スペースに並べる必要があります。
ネットにはない気づきを求めて訪れる来店客を失望させないよう、書店が仕入れて並べる本は組合員全員で協議し、厳選したものに絞っています。また、箱店主の皆さんの知恵を借りながら、普段書店に足を運ばないような来店客層にもアプローチできるよう、様々なイベントを開催しています。

  • 栄町共同書店内観

今後の方向性

労働者協同組合と栄町市場を深く知る企画を開催

栄町共同書店の事業目的は「社会に必要な機能が欠けている時、それを自分達の力で補っていく『自治』の精神を再興するための旗印とする」です。その目的を果たすため、箱店主と運営側の両方が関わって、労働者協同組合とその働き方や、共生について学ぶ機会を設けていこうとしています。

その際欠かせないのが、栄町市場について学ぶことです。栄町市場は沖縄の中でも色濃い共同性を残すエリアとして知られていますが、その中での栄町労働者協同組合の強みは研究者と表現者で構成されていることです。そのような共同性が培われてきた地盤を培ってきた営みをより深く知り、箱店主はじめ一般の方に知ってもらう取り組みに力を入れています。

本を求める誰もが訪れやすい書店に

栄町共同書店は誰もが安心して過ごせる場所を目指しています。様々な背景を持って訪れる箱店主や来店客が互いに尊重し合える空間づくりを目指して店頭にはメッセージも掲示しています。

読書と言うと誰もが手軽に嗜める趣味のように思われがちですが、障がいのある人たちにとっては必ずしもそうではありません。たとえば車いすユーザーの場合、入口に段差があるだけで入店を断念せざるを得ません。それをクリアするため、取り外し式のスロープを導入しました。保管場所に悩んでいたところ、市場振興組合から快く共有倉庫の一角を提供頂き、今では市場の共有財産として運用されています。今後は市場近辺のトイレマップ作成やその発信など、様々な工夫を重ねていく予定です。

  • 近隣住民でにぎわう「栄町市場祭り」で開店の挨拶をする栄町共同書店のメンバー

基本情報

法人名  栄町労働者協同組合
事業所の所在地  沖縄県那覇市安里381座波ビル1-C
設立  2024年7月
事業内容  シェア型書店の運営、古書の売買業、商店街の活性化及びまちづくりに関する事業、教育・学術及び文化の振興を図ることをとする事業など
組合員数   6人
組合員の年代別構成  20代〜30代
組合員以外の就労者  0人
売上高  300万円(年間見込額)
出資1口の金額  1万円
出資の総口数  38口

(令和6年11月末現在)