労働者協同組合ほっと会(令和5年5月設立)
「私ごと」から「みんなごと」へ、ほっと会の課題は地域の課題
労働者協同組合の強みを活かし、社会課題に向き合う
労働者協同組合ほっと会は、静岡県藤枝市で「認知症と共に歩む家族の会」(以下、認知症家族会)として始まりました。認知症をはじめ、孤独孤立の悩み、ヤングケアラーなどの悩みを、誰にでも起こりうる社会の問題としてとらえ、みんなで解決を目指しています。
これまでの活動の経緯
介護のストレスを誰かと共有したい、そんな想いが始まり
「わかってもらえない」ストレスでいっぱいだったアルツハイマー型認知症の母との日々。足腰が丈夫で歩く姿もしっかり、短時間なら受け答えも問題ない、でも家庭の中では物忘れや困った症状で家族を悩ます。そんな認知症家族と暮らす苦しさをわかってもらえる仲間が欲しい、話ができる場が欲しい、その想いが立ち上げのきっかけでした。
2008年7月、藤枝市民活動センターで第1回定例会を開催し、認知症家族会として「ほっと会」を設立しました。先のことは考えず、切実な気持ちだけの始まりでした。
介護の悩みは、家庭ではなく社会の課題だと気づき任意団体に
1人2人と仲間が増えていくと、社会から孤立を感じて苦しんでいる方、大変な介護生活なのに明るく前向きな方、介護をしながら慣れない家事をこなす男性など、様々な体験が語られるようになりました。互いの思いを吐露すると「うんうん」と頷いてくれる人がいる、理解してくれる仲間がいる、それはとても嬉しいことでした。
悩んでいるのは自分だけではない、これは個人ではなく社会の課題ではないか。
ならば、ほっと会を通じて認知症介護家族の想いを社会に伝えることが、認知症の人と家族が安心して生活できる社会を築く社会資源になる、と気づいたのです。
そこで、「私ごと」を「みんなのこと」にするべく任意団体を設立しました。
- 家族会定例会 特別講座「成年後見、信託 手続きの概要と使い分けのポイント」
認知症カフェ 輪笑(わっしょい)オープン
活動の幅を広げるため法人化を検討、労働者協同組合を選択
2015年には居場所&オレンジカフェ(認知症カフェ)輪笑を開設。赤ちゃんから高齢者まで誰でも気軽に利用できる、垣根のない場所として週3回開いています。
2017年からは介護予防・日常生活支援総合事業も開始。認知症家族会の定例会(月1回)、ケアラーズカフェ、個別相談、電話相談、会報発行をはじめ、ホームページやYouTubeチャンネルの開設、講座・セミナー開催、物品販売も始めました。
- 認知症カフェ輪笑 絵手紙講座
輪笑の事業に関し、藤枝市からは原則として法人格を有する団体に委託すると言われており、活動継続には法人化が必須でした。社会的な法人といえばNPO法人しか知らなかったのですが、藤枝市の事例発表の場で現在の労働者協同組合ワーカーズコープ・センター事業団と出会い、NPO以外の法人格がとれることに驚きました。その後、労働者協同組合法が施行され、静岡県庁主催の説明会に参加しました。
メンバーが横並びの関係で運営、新しい非営利法人、設立手続きが簡単、地域が抱える課題解決が目的、自治体と連携した事業に取り組みやすいなど、その特徴を知るほどに「こちらの方がほっと会らしいね」と労働者協同組合を選択しました。
手続きや書類作成はわからないことだらけのうえ、任意団体からの名称変更や会員・利用者様への説明、さらに輪笑の移転も重なり大変でしたが、労働者協同組合ワーカーズコープ・センター事業団のサポートを受けて設立にこぎつけました。
- 輪笑の皆さんとともに
活動に当たり大事にしていること(意見反映の方法等)
なんでも気兼ねなく話せる雰囲気づくりを大切に
ほっと会が任意団体の頃から大切にしているのは、とにかく集まった人たちが自分のことや日頃の悩みを気兼ねせずに何でも話せる雰囲気づくりです。同じ立場の人たちが語り合い、支えたり支えられたり、教えたり教えられたり、あせらずゆっくり、こつこつ、しっかり、でもみんながニコニコしながら活動していけることを目指しています。
ひとりひとりの気持ちを大切に、仲間として尊重しあう
3人の組合員で始まったほっと会ですが、想いや考えはそれぞれです。事業を行っていく中で、方向性は一緒なのに微妙に考え方が異なりなかなか前に進めないこともあります。そんなときは、とにかく話しあい、互いに納得いくまで率直な意見を交わし合います。
時間はかかりますが、そもそも話をするために立ち上げたほっと会です。ひとりひとりの気持ちや意見を大切にして、仲間としてお互いに尊重し合っています。
気づいたことからひとつずつ
いろいろな人と繋がり、臨機応変に解決を
そんな中で、組合員を増やすことへの躊躇や不安もあります。従来の活動を継続することで精いっぱいで、新しいことになかなか取り組めず、やりたいことが思うようにはかどらないという課題もあります。
しかし、その一方で、行政ではなく地域の住民同士だからこそ、課題に早く気づき、スピーディに取り組むことができるという良さもあります。
困った時はお互いさま。人が人を繋ぎ、いつの間にか、いろいろな人たちと繋がって、解決を見出すことができる。
それが労働者協同組合の強みだと思っています。
活動に当たり生じた困難や課題、それに対する対応
地域の人々のニーズに応じて多種多様な支援サービスを提供
労働者協同組合ほっと会の活動は現在、多岐に及んでいます。従来の「認知症家族会の運営」に加え、2024年3月からは、こども食堂&地域食堂「ほっとちゃん」を開始。年齢を問わず、地域の中で孤立している方、孤独を感じている方、一人暮らしの方への繋がり支援、ヤングケアラーの精神的支援をめざしています。
また、「ほっとなサポート事業」(介護保険外サービス)として、高齢者支援だけでなく、ヤングケアラーや子育て中のママなど孤独孤立に悩む方々に対して、食事作りや掃除・洗濯などの家事をお母さんのように気軽に頼める活動を始め、行政サービスの隙間を埋める支援を行っています。
新しい事業では「旅行をあきらめている方への旅行支援」も始めました。まずは家族も参加できる日帰りバスツアーを実施しましたが、すぐに定員が埋まり「楽しかった」と好評でした。
- 労働者協同組合ほっと会の案内チラシ
- こども食堂&地域食堂「ほっとちゃん」チラシ
忙しさや組合の未来、増員などへの不安
労働者協同組合への理解を進めながら、手探りで歩む日々
地域に必要な課題に気づいたら、どんどん取り組んでいく。とにかく今は突き進んでいますが、事業を円滑に行うための人員不足や、やりたいことに人手が追い付かないもどかしさも感じています。
なにより、労働者協同組合の働き方を地域の皆さまに理解していただくのが大変で、「労働者協同組合」という名称から「労働組合」と勘違いされることもよくあります。私たちの活動を通じて、労働者協同組合への理解が広まっていくことが大切だと考え、時間をかけて説明するよう心がけています。
行政や商工会、地元企業などへの周知も課題です。ひとつひとつの活動を通じて理解を深めていくことはもちろん、ホームページやSNSを活用した情報発信や理解の促進に努めています。
今後の方向性
ほっと会は社会の縮図、ほっと会の課題は地域の課題
労働者協同組合の働き方(協同労働)を活用し、
自立して取り組んでいきたい
地域の課題はまだまだあります。ほっと会では今後さらに、「高齢者の外食支援」、地域コミュニティと医療を繋げるリンクワーカーとして、高齢者や認知症の人を医師や専門職に繋ぐ「みんなの保健談話室(仮称)」、現在の活動の事業化、介護保険事業(デイサービス)など、労働者協同組合の働き方を通じて実現可能な取り組みを検討しています。
地域の課題はまだまだ多く、公共に頼るだけでなく住民同士だからこそ気づき、取り組めることがたくさんあります。ほっと会は、事業も人も「ごちゃまぜ、ゆるゆる」な状態ですが、このゆるさが互いの理解を深めることもあり、これも地域共生社会のひとつの良い形だと考えています。
1人の困りごと、「私事」として始まったほっと会ですが、いつの間にかここに集う人たちが、それぞれの課題を「自分事」として考えられるようになりました。さまざまな専門職の方々とも良い繋がりが生まれています。
せっかく労働者協同組合になったのですから、助成金だけに頼らず事業を円滑に運営し、自分たちの力で地域の課題の解決に取り組んでいきたいと考えています。
基本情報
法人名 労働者協同組合ほっと会
事業所の所在地 静岡県藤枝市南駿河台2丁目2番3号
設立 2023年5月
事業内容 高齢者介護・生活支援・コミュニティカフェ(居場所)の運営
組合員数 3名
組合員の年代別構成 60代~70代
組合員以外の就労者 0名
売上高 220万円(年間見込額)
出資1口の金額 1万円
出資の総口数 3口
(令和6年4月末現在)