労働者協同組合ワーカーズコープ・センター事業団
国分寺ふじもと地域福祉事業所 生活介護あっぷ(令和5年4月設立)

「保護者や家族」も担い手となる障害者の生活介護づくり

「国分寺ふじもと地域福祉事業所 生活介護あっぷ」は、東京都国分寺市に2022年5月に開所した障害者の生活介護の事業所です。「働く家族も支援する」をコンセプトに2017年に開所した障害児の放課後等デイサービス「すてっぷ」の卒所後の居場所として、保護者の方と一緒に計画を立ち上げ、地域に根付いた事業所として活動しています。

これまでの活動の経緯

「働く家族も支援する」をコンセプトに!

2017年、東京都国分寺市内で障害児の保護者の方々からワーカーズコープ・センター事業団に「働く保護者のために、学童と同じ時間まで開所する放課後等デイサービスを作って欲しい」という要望が寄せられました。
当時、障害児の保護者の方々の地元には、多数の生活介護施設が存在するものの、保護者のフルタイムの仕事が終わる時間帯まで障害児を預かってくれる施設がなかったため、保護者は仕事との両立に困っていました。そこで、要望を受けたワーカーズコープ・センター事業団は、立ち上げ準備の段階から保護者と話し合って、保護者とともに事業計画を作成し、働いている保護者のニーズに合わせて営業時間を平日夜7時までとするなど、「働く家族も支援する」をコンセプトに放課後等デイサービス「すてっぷ」を立ち上げました。

就労支援施設B型開所の挫折

放課後等デイサービス「すてっぷ」の立ち上げ後、保護者とともにさらに取り組んだのは、放課後等デイサービスを卒所してからの児童の居場所づくりでした。卒所後の障害者の就労先や居場所を心配する保護者の声は多く、今度は「すてっぷ」卒所後の居場所として就労継続支援B型(※)事業所の開設を目指すことになりました。

※就労継続支援B型とは、障害者総合支援法に基づく障害福祉サービス事業のうち、主として通常の事業所に雇用されることが困難であって、雇用契約に基づく就労が困難である障害者の、就労や生産活動の機会、その他の支援を提供する日中活動の場として設置される事業。

また、地域の課題として待機児童問題もあったため、1階で就労継続支援B型事業所、2階で民設民営の学童クラブを行う「ふじもと地域福祉事業所」を2019年に新築物件を借りて立ちあげました。
ところが、コロナ禍で、就労継続支援B型で予定していたカフェや製菓事業の計画が途中で止まり、また、自主事業として行っていたカフェや食関連のイベントなども休止となったため、ふじもと地域福祉事業所の事業は学童クラブの運営のみとなってしまいました。この間にも放課後等デイサービス「すてっぷ」を利用する児童は成長し、卒所を間近に控える子が出てくると、保護者が仕事を辞めなければならないのではという危機に直面していきました。

卒所後の居場所の開所に向けて保護者と計画再起動

放課後等デイサービスと同様に、国分寺市内には多数の生活介護施設が存在するものの、開所時間が放課後等デイサービスよりも更に短い15時や16時までと、とても就労を継続することができるような状況ではないと保護者の方々からの相談を受けていました。実際に放課後等デイサービス「すてっぷ」の利用者が通っている府中市にある特別支援学校の進路担当者と会談したところ、正規雇用で働いている保護者の殆どが、子どもの学校卒業と同時に就労継続が困難となり、仕事を辞めてしまっているとの話でした。
「もう一度、一緒に事業所立ち上げを目指しませんか。」という保護者の想いに、ふじもと地域福祉事業所や放課後等デイサービス「すてっぷ」のメンバーも「今度こそ実現させよう」と、コロナ禍でも事業継続可能な内容を練って、2020年の夏頃に計画を再起動させました。
今回は、就労継続支援B型事業所でのカフェ等ではなく、療育や創作、園芸活動などを行う生活介護事業所の形態を目指すこととし、開所時間も「すてっぷ」と同じ夜の7時までとして働く保護者にも配慮しました。
資金面では保護者や多くの仲間(ワーカーズコープ・センター事業団の組合員)に呼びかけを行い、保護者自らが地域の人たちに協力債(※)などを呼びかけ、結果的に約800万円弱集め、1階部分を改装しました。
施設の名前は、「すてっぷ」卒所後も、前向きにポジティブにという意味を込め、「あっぷ」と名付け、生活介護事業を開始しました。

※協力債とは、新規事業立ち上げ時等に関係者や地域の方々に広く呼びかけ協力いただく債券のこと、1口は1万円。

  • 開所式での集合写真

活動に当たり大事にしていること(意見反映の方法等)

常勤非常勤関係なく同等の立場で意見を言い合える職場を目指して

ふじもと地域福祉事業所の開所当時、働く人が対等な関係で出資・意見反映・労働を一体として担う組織であることを皆で話し合い続け、常勤と非常勤で職域を区別せず、一人ひとりが主体性を持って自主的に働ける環境づくりを目指しました。

常勤と非常勤の役割分担に顕著な差がある施設の場合、担当者や特定の職員のみが知り得ている情報があるなど,現場では多かれ少なかれ「聞いていない」「知らない」などの言葉が散見され、雇用形態や役職の有無が時に職員の主体性を削いでしまいます。また、障害者の生活介護の現場は、障害福祉という専門性を求められる職務だけあって、役職や経験年数などによって職員間のパワーバランスが生まれがちです。
そのため、事業所内でそのようなことが起こらぬよう、どんな小さな情報であっても全員で共有し、決め事は必ず合意形成を図ってきました。責任者は意向や指針は示すものの、上からのモノの言い方をせず、「こういう問題があるが、どうしたらいいか?」と常に投げかける「問い」の言い方をすることで、職員皆ができる限り同じ温度で物事を捉え、意識するように努めてきました。
このように情報の周知と共有、自律分散型な関係性を徹底することで、常勤と非常勤の職域を超越し、全ての職員が同等に職務を果たし、同等の立場で意見を言い合える職場を実現させました。

しかし、ここまでの道のりは決して甘いものではなく、「常勤と非常勤が同じ立場だと言っても給与も働く時間が違う」、「毎日出勤する常勤が中心で業務を回すべき」、「非常勤に責任を取れと言うのか」等の声が挙がったり、“自分がやらなくても誰かがやってくれる”という当事者意識の欠如から、日々の日課業務を責任者が一手に負ったりと、開所から半年は茨の道でした。

  • 開所から2年目を迎え、新たな仲間が加わった2回目の入所式の様子

活動に当たり生じた困難や課題、それに対する対応

保護者とともに歩み寄りながらの事務所運営

生活介護事業「あっぷ」の事業の開始に当たっては、放課後等デイサービス「すてっぷ」と同様に働く家族をも支援しようと、2020年の8月より、毎月1回日曜日に保護者や地域の方々と「あっぷ」の立ち上げ会議を実施し、母親のみならず、父親も参加するなど、関わる人たち全てが主体者となり、計画を進めてきました。

ある父親は「公認会計士の資格を目指しているので、何かあれば手伝う」
医療関係の両親は「医師の父親は嘱託医、看護師の母親は看護師として関わる」
ある保護者は「看板デザイン作成、内装の配置や配色に関わる」
ある母親は「住まいが事業所のすぐ近所なので、朝夕と変則勤務で確保が難しい送迎ドラ
イバーを担う」
など、多くの保護者が主体的にこの事業に関わりました。また、立ち上げに参画している保護者はもちろんのこと、保護者自ら地域の知り合いらに、協力債の打診を行い、資金集めにも協力いただきました。
日中のプログラムや年間のスケジュールの作成、イベント内容及び昼食の配膳内容等々の細部までも、保護者と共に話し合って決めてきましたが、共につくるということは、利点ばかりではなく、話し合いを進めていく中で、保護者の思いと運営側の考えの相違が生まれることもありました。そもそも長時間開所で組合員の労働時間をシフト制にするなど通常の運営よりも厳しい状況の中、保護者の要望と事業所で折り合いをつけることが大変でしたが、「ワーカーズコープとならやれると信じている」との保護者の思いに応えるべく、お互いに歩み寄りながら合意点を作ってきました。

「卒所後の居場所を考える会」の保護者は「立ち上げから思い入れのある『すてっぷ』に、子どもが開所以来お世話になった。3月に高校卒業を控え、なんとしても卒所後の居場所をつくりたい、ワーカーズコープとならやれると思い、再度相談した。『あっぷ』がなければ仕事を辞めざるを得なかった」と当時を振り返っています。

  • 2022年11月に実施したバザーの準備に手伝いにきた保護者らの様子

今後の方向性

次なる仕事おこしに夢は広がる

今年3月まで、「あっぷ」を利用する児童の担任だった、特別支援学校の元教諭も「在職中、いつも気にかかっていたのが子どもたちの卒業後のこと。保護者から立ち上げの構想を聞き、これはすごいと思った。さまざま困難もあったと思うが。立ち上げを応援してきた者として開所を本当に喜んでいる。私もみなさんの取組に学んでいきたい」と期待を寄せています。

最初はどこか他人事だったが、保護者の悩みや思いを聞く中で、立ち上げの当事者としての意識が芽生えた組合員も多くいます。利用者は現在6人ですが、保護者の中には『あっぷ』で働く人もおり、早く経営を安定させ、国分寺の地場野菜(こくベジ)の販売や、地域の方、学童クラブと一緒にさまざまなイベントにも参加していきたいと思っています。

立ち上げメンバーの保護者は「障害のある子を持つ保護者が考えるのは、自分たちが老いた時や親亡き後の子どものこと。子どもと入れる施設やグループホームづくりにも取り組みたい。」と今後についても思いを語っています。「あっぷ」はさまざまな困難もありましたが、保護者の強い想いと熱意で立ち上げることができました。この期待を裏切らないよう、事業継続への決意を固めて運営に臨んでいきます。

  • 1階が生活介護「あっぷ」、2階は民設民営の学童「ふじSUNクラブ」

基本情報

法人名  労働者協同組合ワーカーズコープ・センター事業団
事業所名 国分寺ふじもと地域福祉事業所 生活介護あっぷ
事業所の所在地  東京都国分寺市富士本3-1-15(本部は東京都豊島区)
設立  2022年5月に「生活介護あっぷ」を開所
(ワーカーズコープ・センター事業団は2001年9月に特定非営利活動法人格を取得、2023年4月に労働者協同組合に組織変更)
事業内容  子育て・障害者支援(放課後等デイサービス)
組合員数  14人
組合員の年代別構成  20代~70代
組合員以外の就労者  1人
売上高  4,242万円(2022年度実績)
出資1口の金額  5万円
出資の総口数  89口

(令和5年6月末現在)