労働者協同組合ワーカーズコープ・センター事業団
仙台地域福祉事業所けやきの杜(令和5年4月設立)

こどもたちをまんなかに 地域のみんながふれあうあったか交流広場

仙台地域福祉事業所けやきの杜は、2009年4月に開所し、今年で14年目、主に仙台市からの指定管理事業を行っています。現在は、児童館8館、子育てひろば1館、院内保育所1箇所、中高生の居場所の運営を行っています。

これまでの取組と課題を踏まえた対応

仙台地域福祉事業所けやきの杜は、2009年から主に仙台市内の8児童館、子育てひろばなどの指定管理事業を行っていく中で、地域の方々と連携しながら、組合員の間で話し合いながら地域課題を解決しようと様々な取組を行ってきました。

児童館が地域と取り組む防犯活動

私たちの現場の一つである荒町児童館では、荒町商店街振興組合や市民センターなどとともに、『仙台あらまち子まもり防犯プロジェクト』に取り組んでいます。この取組は、仕事や買い物、通勤などのちょっとした時に、子ども達にちょっと目を向ける、それを毎日継続することで自然に防犯に繋がっていくというものです。
子ども達にとって安心・安全な町は、全ての人にとって住みやすい町。これはプロジェクト当初から変わらない想いです。
プロジェクトのきっかけは、2018年に荒町商店街振興組合と行なった江戸時代の回文団扇(注)の復活事業です。この取組を通じて地域の方々同士が顔の見える関係になったことをきっかけに、子どもたちをまんなかに、地域でもっと何かできないか、地域課題を解決しようと、このプロジェクトが始まりました。

(注)回文団扇:荒町の名物。荒町が御譜代町のひとつとして麹の製造で栄えていた頃、麹が作れない時期に副業として渋団扇を作っていた。そこに回文の名手である細屋勘左衛門(仙代庵)の回文を載せて販売したところ、評判になり人気が出たとのこと。その史実をもとに、荒町商店街で「回文団扇」を特産品として復活させた。

児童館では、防犯の標語やポスターコンクールを行い、受賞したポスターと標語を地域や児童館で掲示したり、親子で子まもり防犯教室も行いました。警察署職員から子どもを犯罪から守るキーワード「いかのおすし一人前」(知らない人について“いか”ない、知らない人の車に“の”らないなど)を学びました。
また、実際に子ども達がお店に伺い、1人ずつ「助けて!」と声を出して逃げ込んで、子どもが駆け込んできた時のお店の対応を確認するという、実践的な模擬訓練もしました。こうした訓練の中では、子ども達がいざとなると声がなかなか出せないことや、商店街のお店側も実際に体験しないと110番通報の手順などがわからないなど、様々な気づきがありました。

「荒町が好き」「もっと荒町のことを知りたい」
こうした取組を通じて、耳にする、子どもたちの声は、荒町の希望です。
これからも荒町は子どもも大人も誰もが住みやすいまちを目指し、地域での連携を強めていきたいと思っています。

  • 子どもがお店に駆け込む防犯訓練

課題から生まれた「みんなのBASE」

児童館事業運営を続けて14年、不登校、いじめ、ヤングケアラー、機能不全家族など様々な困難さを抱える子ども達と向き合ってきました。
学校に行かずに学ぶことができたり、学校や家以外に安心して過ごせるサードプレイス(第三の居場所)を作りたいと思う反面、指定管理事業を受けている以上、事業の枠を超えた活動ができないのではないかと葛藤がありました。また、全国の児童館の活動を見渡してみても、児童館が中高生の居場所機能を必ずしも果たせていないという課題を感じてきました。思春期特有の「ゆらぎ」や生きづらさを抱える子どもたちを継続して支援するためには、彼らが「いていい」居場所が必要です。
そこで、「けやきの杜」らしさを大事にした中高生の居場所づくりの構想を練り始めました。

その構想の中心はもちろん、「こどもたちをまんなかに」することです。
ここに来たら誰かがいて、「何をしていても、何にもしなくてもいい」ことが保障される「BASE(基地)」がある、「そのままのキミでいていい」という居場所づくりの実現を目指して進んできました。
また、コロナ禍の真っただ中な時期では、マスク着用の中で「表情がみえない」コミュニケーションの中で、子どもたちを支える大人たちの居場所も必要でした。色んな立場や人種を越えて、人と人との「つながり」を紡ぎ直し、みんなが自分の想いを吐露したり、やりたいことが実現できる場所として「みんなのBASE」は誕生しました。
2021年10月から本格始動し、最初は利用者ゼロでしたが、現在では月平均300人の利用者を見込めるようになりました。
午前中は、乳幼児親子の集いの場、大人たちの会議や研修の場所。午後は、就学前の子どもから高校生までが、ごちゃまぜの中で遊ぶようになりました。
また、BASEでは、フードバンク活動や駄菓子屋営業、子育てサロンやイベントの開催、研修など、様々な活動が行われています。
これらの活動が、お母さんたちの社会復帰のきっかけになったり、子どもたちが抱える課題を大人も一緒に考えることを通して、思いがけず、自分自身のこれからの生き方を見つめ直す機会に繋がることもありました。

活動に当たり大事にしていること(意見反映の方法等)

こどもまんなかの居場所づくり

「こどもたちをまんなかに 地域のみんながふれあう あったか交流ひろば」

これは、けやきの杜が始まったときから変わらないスローガンです。
けやきの杜は、全国各地に事業所を持つ労働者協同組合ワーカーズコープ・センター事業団の1事業所として、「協同労働の子育ち指針」に基づいた運営を行っています。
ワーカーズコープ・センター事業団は、「共に生き、共に働く社会の創造」を合言葉にすべての子どもの命や人権が大切にされる「協同の社会づくり」を目指してきました。
そして、長年の協同労働の実践や、子育ち事業に関わってきた多くの事例を経てできたのが、「協同労働の子育ち指針」です。

1人1人の子どもの違いや個性を尊重する
子ども自らが持つ育つ力を信じること
人と人との関係の基礎となる豊かな「あそび」を創造する
地域や暮らしの中にあった伝統行事や文化を継承していく

けやきの杜が特に大切にしている指針の一部です。

この考えから、自然体験活動や地域資源や文化を「あそび」として取り入れながら、「五感でもって体験し、体感する」こと、たくさんの人たちとの出会いから「生きていく力」を育めるようなプログラムを実施しています。

  • 登米鱒淵での自然体験の様子

共に学び、互いの取組に活かす

けやきの杜では、「けやき流 人財育成スタイル」があります。これは、共に学び、互いの取組に活かし、よい刺激は必ず相乗効果になっていくというものであり、私たちのこれまでの取組の中から生まれたものです。
1つ目は、「学ぶチャンス」を逃さないことです。教育研修の場を積極的に持ち、専門分野以外にも興味を持って視野を広げる努力をすることは、すべて子ども達の最善の利益につながっていくと信じています。
2つ目は、「得意」を「役割」にすることです。一人ひとりがもつ特性や得意なこと、時には不得意感についてもそれを「役割」としていくことで「役割は人を育てる」に必ずつながっていきます。
3つ目は、「スキルを循環させる」ことです。それぞれが持っているスキルを事業所内外で循環させていくことは、さらに自身の学びを深めることにつながっていきます。

活動に当たり生じた困難や課題、それに対する対応

組合員の疑問が仕事おこしに

けやきの杜では、「話し合って決める」ことを大切にしています。各現場毎月の経営会議や団会議を行って、仕事の方針や新規事業の提案、人事異動や役職役割の創出まで、組合員同士の話し合いで決めています。自分たちの働き方を自分たちで決められるため、「自由さの中にある責任感」が充実感にも繋がっています。
前述の「みんなのBASE」も組合員の声から生まれました。ずっと感じてきた課題をそのままにせず、「誰もやらないなら私たちがやるしかない」と意を決して4年がかりで話し合った成果が、そのまま居場所づくりへと繋がっていきました。
このけやきの杜に限らず、労働者協同組合では、組合員1人のアイデアが仲間の組合員との話し合いを通じて形になり、地域に必要な仕事をおこすことができます。1人ではなかなか解決できない地域のニーズや困り事も、仲間の組合員や地域の住民の方々と力を合わせて仕事をおこすことで、課題解決に取り組むことができます。
みんなのBASEのように、制度事業の枠の中だけでは補えないような、細やかな地域のニーズに応えられるのも、労働者協同組合の良いところではないかと思います。

  • みんなのBASEで開催した「まちづくりサロン」

今後の方向性

労働者協同組合法が施行されて、私たちワーカーズコープ・センター事業団の実践が「法律」に反映されました。誰もが協同労働を通じて「想い」を「仕事おこし」という形で実践できる、そんな時代がやってきました。そんな時、これまでの実践の蓄積がある私たちにできるのは、「自分たちが大切にしてきたもの」を自分の言葉で語ることなのではないかと思います。
私たちは今まで、多くの人たちとの出会いを通して、地域資源を使って体験体感の場を創り出してきました。地域での体験活動の場は、身を持って子どもたちの育ちに大きな変化をもたらすことを実感してきました。そして、子どもたちの成長変化は、必ず一緒に働く仲間の組合員たちにも波及し、それぞれの組合員の考え方や視野を広げることに繋がりました。
子どもの最善の利益のためには、「私たちだけではなく、地域全体での子育ちをしていく」ことが大切だと思っています。これからも地域のつながりを活かして、こどもまんなかの居場所づくりに励んでいきます。

  • けやきの杜メンバーによるSDGsフェスタ

基本情報

法人名    労働者協同組合ワーカーズコープ・センター事業団
事業所 仙台地域福祉事業所けやきの杜
事業所の所在地 宮城県仙台市(本部は東京都豊島区)
設立 2008年4月開所
(ワーカーズコープ・センター事業団は2001年9月に特定非営利活動法人格を取得、2023年4月に労働者協同組合に組織変更)
事業内容  児童館、子育てひろば、院内保育所、中高生の居場所の運営
組合員数  109名
組合員の年代別構成  10代〜70代
組合員以外の就労者  36名
売上高  約4億1700万円(2022年度)
出資1口の金額 5万円  出資の総口数 777口

(令和5年5月8日現在)