労働者協同組合フラヌイスコーレ(令和5年10月設立)
「対話、学び、遊び、仕事」の4つの活動を通じ、すべての子どもたちの幸せが保障される地域社会を目指し、それにより全世代の幸せを実現する。
労働者協同組合フラヌイスコーレは、北海道富良野市で、不登校や学校になじめない子どもたちやその保護者を対象に、学習や生活支援、子育てや教育の相談事業を行っています。現在、フリースクールの立ち上げに向けて活動中です。
これまでの活動の経緯
子どもたちや保護者の悲痛な叫び
私たちの活動の始まりは、2年前の2021年、学校の生活や学習になじめない子どもたちや我が子の発達や成長に悩みを持つ保護者の生の声を現在のメンバーが聴いたことです。
最初に活動を始めたメンバーは、任意団体「フラヌイコロ」(アイヌ語で、フラヌイ=富良野、イコロ=宝:富良野の宝と言う意味の造語)に所属しており、子どもたちの教育環境や社会課題などを共に学ぶ仲間でした。
フラヌイコロでは繋がりや対話を大事にした活動が行われており、その活動の流れの中で「障がいのある子を持つ親の会(とまり木)」が発足し、不登校についても当事者の保護者がいたため、様々な悩みを共有してきました。
そのような中、コロナ禍をきっかけにして、メンバーの中で、学校の生活や学習になじめない子どもたちや我が子の発達や成長に悩みを持つ保護者の生の声を聞くことがさらに増えてきました。
フラヌイコロ以外の場面でもそのような悩みを耳にすることが増えてきた私たちは、学校や教室になじめず、そこに居続けることができない子どもをもつ保護者が自責の念にとらわれ「自分の子育てが間違っていたのでしょうか」と自己嫌悪を抱く姿に心を痛め、そうした親子の不安と孤立を地域で何とかできないものかと、「自分たちでできること」を探し始めました。
ある日、子どもが不登校で悩んでいる保護者の一人が、「学校に行かなくてもいい。でも、家以外の場所で、家族以外の人と接したり、会話するようなことをしてほしい。そんな場所はないだろうか。」と話してくれました。
これをきっかけに、子どもたちが自分で来られる範囲内にある地域のコミュニティセンターの一室を借りて、まずは家や学校以外の場所で活動をしてみようと考え、コミュニティセンターでの活動が始まりました。
また、自宅での関わりを希望する子どもたちもいたことから、保護者との話し合いを経て自宅へ訪問し、話をしたり、学習のサポートをする活動も同時に行ってきました。
身近で小さな取組を積み重ねる
小学校5年生から学校に行くことができず、自宅でゲーム実況に没頭している中学2年生と出会いました。私たちは、その中学生の自宅を訪問して、コミュニケーションを取るうちに、その子は、学校に通うことができなかった間の自分自身を振り返ることができるようになりました。そして、高校進学を目指していくことも視野に学習支援を続けてきました。
また、しばらく学校へ行っていなかった兄妹を心配した母親からの促しで、地域のコミュニティセンターでの活動に参加した兄妹が、カードゲームや軽運動などを通じて、親以外の大人とのコミュニケーションをとっていく中で、学校への登校に意欲を示すようになったケースもありました。
こうした取組が、子どもにとっての楽しみになっていくことや、保護者の方の不安や心配事を少しだけ軽減できることにもつながるのだと感じています。
このような、身近で小さな取組の積み重ねを通じて、次第に私たちの活動に共感してくれる保護者や地域の方々の支援の輪が広がっていきました。
そして、こうした私たちの活動を口コミで知った方々から「あの学校にこんな子がいて困っているよ」「相談に乗ってあげてください」と次々に連絡を受けるようになりました。
自分たちの活動を組織的、継続的に行うため労働者協同組合を設立
不登校や、学校への不安に押しつぶされそうな子どもたち。
私たちは、かけがえない子ども期に日々成長を続ける子ども達にとって一刻も猶予がないと考え、子どもたち一人ひとりをこのような感情や苦悩から解放してあげたいと思いました。そして同時に、子どものことで悩み、苦しんでいる保護者のサポートの必要性も強く感じました。
活動を続けていく中で、拠点を持たないボランティア活動だと学校や行政からの信頼を得ることは難しく、また、場所の確保が難しい時もあり活動が定まらないことなどの課題も見えてきました。相談も増えてきている中、今後を考えた時に必要だと感じたのは、自分たちの活動を組織的に、そして継続的に行うための法人格の取得です。
そんな想いから、私たちは、従来から交流を進めてきた労働者協同組合ワーカーズコープ・センター事業団の方々の支援を受けて、働く人が組合員としてお金を出し合い、運営をみんなで議論して一緒に働く「労働者協同組合」の働き方(協同労働)を通じ、こうした社会課題を解決したい、とメンバーの想いを一つにしました。
まずは、労働者協同組合法人を早期に立ち上げ、不登校の子たち・保護者の支援をしながら直面した課題を一つ一つ解決していくため、立ち上げメンバーで日本労働者協同組合連合会のアドバイスを受け、2023年9月5日に設立準備会、同月27日に設立総会を開催し、「労働者協同組合フラヌイスコーレ」として第一歩を踏み出しました。
労働者協同組合の設立に当たっては、活動を応援したいと駆けつけてくれた方や、フラヌイコロからも多くの仲間が設立総会に参加してくれました。
新たに設立される法人への期待や、自分たちもフリースクールでテニスや卓球などを教えられる、と主体的な参加意向を表明してくれたりと、私たちの設立総会は、とても温かい雰囲気で行うことができました。
- 設立総会時の様子
活動に当たり大事にしていること(意見反映の方法等)
組合員同士が互いに学びながら行動へつなげてゆく
労働者協同組合フラヌイスコーレで話し合うときに大事にしていることは以下の3点です。
- 問いに向かって、自分の体験、自分の考え、自分の気持ちを心を込めて話します。
- 好奇心を持って、学ぶために聴きます。
- みんなの声が聞かれ、私たちの関係性が健やかに育つことを願って、自分たちの影響力を意識して行動します。
こうした話し合いや学びの場を通して、「子どもたちの幸せを考えることは、全ての人の幸せを考えることにつながる」という思いを確認しながら、組合員同士が互いに成長していきたいと考えています。
- フラヌイスコーレ 研修会の様子
子どもを通じ、全ての人たちの幸せを生み出す仕事
学校に不安を抱き、学校に通えない、なじむことができない、不登校の子どもたちは、学校という空間と時間がその子にとって「自分らしく」いられない、自分らしい居場所とは必ずしも感じることができていません。
私たちは、そのような子どもたちや家庭のために、「地域ネットワーク型フリースクール」という選択肢を作りたいと考えています。
具体的には、一つのフリースクールを地域にある既存の行政機関や民間団体と連携しながら、子どもたちや保護者のニーズに応じた「遊び」「学び」「仕事」の場として機能させようと考えています。
つまり、私たちフラヌイスコーレ が、子どもたちと保護者、地域にある様々な教育資源とのマッチングを行うことにより、子どもたちと地域社会とをつなぐ「ハブ」として貢献することを目指しています。
その中で、何より大切だと考えているのは、子どもたちが日々生活する「時間・空間・場所」が常に「安心と安全」に満たされていることです。
もちろん、これらは子どもだけの問題ではなく、不登校によって生じる子どもの生活への不安を訴える保護者にとっても大きな問題です。
そのため、不登校を当事者やその家族だけの問題とせず、地域社会全体で子どもや保護者の負担や不安・悩みを解消するための具体的支援体制なども必要だと考えています。
このような地域の体制を準備することで、子どもたちは「自分は地域や人々に大切にされている」という感情を抱くようになります。
そして、すべての子どもが「自分らしく」生きることの意味と幸せを求めることになると信じています。
- フラヌイスコーレ キャンプの一コマ
活動に当たり生じた困難や課題、それに対する対応
活動を進めるにあたっての課題
設立したばかりの労働者協同組合フラヌイスコーレが、子どもを通じて幸せを生み出す活動を進めるためには、以下のように、メンバー全員で話し合って検討すべき課題がいくつもあります。
- フラヌイスコーレの事業をどのように地域の行政機関から評価されるものにしていくのか。
- 現在のスタッフは中高年が主体となっており、子どもたちのロールモデルとしての若者や若年層を中心として、法人内部、そして地域における人材確保をどう進めるか
- 不登校の子どもたちの家庭支援をどこまでどのように進めるか
- 富良野地域を超えた事業モデルづくり
- フラヌイスコーレの事業を持続可能なものにするために、補助金や助成に頼らない運営をどのように進めていくか。また、子育て・教育に関連する社会課題とどのように結びつけて事業の連携を図るか。
- 多忙であることを背景にして、不登校や学校になじめない子どもたち・保護者と十分対応できていない学校・教職員とどのように連携・協力しながら、子どもたちの多様な学びや生活を保障していくか
このように、フラヌイスコーレを取り巻く課題は少なくありません。しかし、フラヌイスコーレへの支援の輪は日々広がってきています。
なぜなら、フラヌイスコーレに集う子どもたちや保護者が悩みながらも孤立や不安を乗り越えようとしていること、そしてそれを当事者だけの問題とせず、すべての子どもたちの幸せを願う多くの地域の市民の方々が理解し、私たちに支援し始めていただいているからです。
その一環が、フラヌイスコーレ フリーマーケットです。
これは、「今は、直接子どもと関わる活動はできないけど、フラヌイスコーレの活動を応援したい!」という方たちが「フラヌイスコーレ フリマ部」を結成し、今後活動の拠点となる場所で企画してくれています。今も月に一回行われていて、保護者同士、地域の人たちの交流の場所にもなっています。
労働者協同組合フラヌイスコーレでは、今後、一つひとつ課題と向き合いながら、地域の方々と一緒に、子どもたちの幸せを実現するために前に進んでいきたいと思います。
- フラヌイスコーレ フリーマーケット
今後の方向性
すべての子どもたちの幸せが保障される地域社会を目指して
労働者協同組合フラヌイスコーレでは、富良野市に豊かに根差してきた教育資源を活かし、地域ネットワークという手法で、
- ① 地域内の問題状況におかれた多様な子どもたちの現状を認識してもらうこと
- ② その子たちの問題を地域社会全体の問題としてとらえること
- ③ そのため、当事者である子どもの意思を尊重すること
- ④ 同じ問題・悩みを抱える子どもや保護者たちがつながる場をつくること
- ⑤ 学校以外の多様な学び・遊びの場をつくること
を目的に「対話,学び,遊び,仕事」の4つの活動を通して,すべての子どもたちの幸せが保障される地域社会を目指します。
その際、地域づくりのパートナーとして子どもたちを捉えることが重要だと考えています。そのパートナーとしての子どもたちの幸せなくして、全世代の幸せは実現しません。
私たちは、労働者協同組合フラヌイスコーレの取組を通し、子どもたちを地域づくりのパートナーとして「子どもが自らの人生を切り拓く権利」を尊重する地域社会を地域とともに作りあげていきたいと考えています。
- フラヌイスコーレ 設立報告会の様子
基本情報
法人名 労働者協同組合フラヌイスコーレ
事業所の所在地 北海道富良野市新光町1-44
設立 2023年10月
事業内容 地域ネットワーク型フリースクール事業、アウトリーチ支援、保護者への相談・支援活動、子どもの学び・遊び環境サポート事業、地域支え合い事業
組合員数 3人
組合員の年代別構成 40代~60代
組合員以外の就労者 0人
売上高 350万円(年間見込額)
出資1口の金額 5,000円
出資の総口数 12口
(令和5年12月末現在)