ゆるやかにつながって、共生社会の実現を(北海道ろうきん)

北海道ろうきん(北海道労働金庫)
地域共生推進室 槙田 恵治氏
「ろうきん(労働金庫)」は「働く人のための金融機関」。活動の根幹は「働く人」にあります。道内で37店舗を展開する北海道ろうきんは、社会のために頑張る非営利組織や労働者協同組合の支援を続けていますが、今年2月、労働者協同組合ワーカーズコープ・センター事業団北海道事業本部と「相互連携協力の推進に関する協定(以下、相互連携協定)」を結びました。互いに「働く人のために」を貫いてきた両者に通じる思いや実践、これからのビジョンなどについて、地域共生推進室の槙田恵治氏に語っていただきました。
「働く人」のための金融機関、「ろうきん」の使命
「ろうきん(労働金庫)」がつくられたのは1950年代初期。戦後復興の時代に「働く人たちがお互いを助け合うために、資金を出し合ってつくった、働く人(労働者)のための」非営利・協同組織の福祉金融機関です。戦後は復興を急ぐがため、金融機関は国や企業への投資を最優先し、労働者に融資をすることはありませんでした。そのため生活に困った人々は高利貸しや質屋から借りるしかなく、生活は困窮していました。そこで、労働者自らが立ち上がり、労働組合や生協運動の中から協同組織の金融機関「ろうきん」が誕生しました。
ろうきんは他の金融機関とは異なり、「働く人のため(目的)」「営利を目的としない(運営)」「生活者本位(運用)」を旨とし、労働金庫法という法律に基づいて、住宅・車・教育資金など、働く仲間と家族の生活をサポートするために資金を役立てています。その使命は、働く人の生活向上であり、人々が喜びをもって「共生できる社会の実現」に寄与することです。
全国には13のろうきんと、中央機関としての全国労働金庫協会、労働金庫連合会がありますが、ろうきんの資金は働く人たちのお金です。私たちは、その大切な資金を「意思のあるお金」として、持続可能で包括的な社会を実現するための循環を拡げています。
1951年6月に設立された北海道ろうきんは今年で74年目。金融機能だけでは解決できない社会的課題に対しても、道内のNPO法人や協同組合、地域社会と連携した取り組みを進めてきました。
労働者協同組合との出会い
労働者協同組合との出会いは2020年6月。「協同組合ネット北海道」の発足がきっかけです。コロナ禍で大変な時期だったのですが、それぞれ異なる法人格で活動している協同組合-北海道労働金庫(ろうきん)・北海道農業協同組合中央会(JA中央会)・北海道生活協同組合連合会(生協連)の3団体が事務局となり、あらためて北海道に「ゆるやかなネットワーク」を立ち上げることになりました。そのときに新しく仲間入りしたのが労働者協同組合ワーカーズコープ・センター事業団北海道事業本部(以下、ワーカーズコープ)です。
2021年10月にはフードパントリーを共同開催したり、労働者協同組合法の法制化記念フォーラムin北海道の実行委員会に参加したり、ゆるやかな繋がりが始まりました。その後、全道事業所長会議や北海道協同労働推進ネットワークキックオフミーティングへの参加(2022年7月~月例開催)、災害備蓄品の寄贈(2022年10月~毎年実施)など、具体的な連携活動を継続しています。労働者協同組合法人化の記念集会や日本協同組合連携機構(JCA)のシンポジウムへの参加など、全国レベルで労働者協同組合と関わる機会が増え、ろうきんと労働者協同組合の背景や理念に共通点が多いことを再認識していきました。
相互連携協定を締結
広い北海道をゆるやかにつなぐ現場間連携をめざす
お互いの組織を知り、一緒に緩やかな活動を行い、継続的な集会参加や、労金連合会寄付事業を通じた現場支援等の各種取組みをとおして、ワーカーズコープの事業所の皆さんに「ろうきん」の活動を認知していただけるようになりました。結果、更なる連携の機運が高まったことから、2024年10月、ワーカーズコープが北海道ろうきんに新規出資加入し、今年2025年2月18日には「相互連携協定」を締結しました。
- 「相互連携協力の推進に関する協定書」調印式の様子

今後のためには、もっとお互いを知らなければなりません。現場がどのような活動をしているのが自分たちで見てみたいと思いました。そこで、北海道の冬は早いので、「雪が降る前に」と、すぐさま全道の労働者協同組合事業所の訪問を開始しました。6月には旭川の地域福祉事業所の北海道地域福祉学会優秀実践賞・児童健全育成賞受賞および事務所移転のお披露目を兼ねた記念祝賀会にも参加し、7月には釧路の現場へも出向きました。
北海道は広大で移動にも時間がかかります。列車で4時間5時間は当たり前、猛烈な暑さの中、釧路から札幌行きの列車が止まって6時間以上もJRに乗っていたこともありました。
- 災害備蓄品寄贈による連携(静内でのフードドライブ)

この協定の特徴は、北海道という広大な地域性に対応するため、本部同士のやりとりだけでなく、「地域ごとにゆるやかにつながっていくこと」をめざしている点です。ワーカーズコープの地域の現場と、全道に展開しているろうきんの営業店がつながり、ろうきん災害備蓄品の寄贈や学習会の開催を通じて、ゆっくり相互理解を深めていこうと考えています。
相互連携協定を活かし、より強力な現場支援を
相互連携協定を交わしたワーカーズコープの事業所は道内に16ありますが、現在、そのなかの札幌中央事業所をパイロット事業所と位置づけ、2つの現場と新しい連携を進めています。ひとつは、「札幌生活支援体制整備事業第2層*」、もうひとつは「まちなかキッズサロン」です。現場の方と直接会って、どんなことができるかを話し合い、具体的な連携を模索しています。
もう一つ、現場支援としてのろうきん連合会寄付事業として「<ろうきん>働く人と子どもの明日を応援プロジェクト」を進めています。これは、金融の枠組みだけでは解決しにくい、手が届きにくい社会的課題の解決に向け、ろうきんが地域の活動を応援する社会貢献活動です。2024年、2025年は、4つの労働者協同組合の事業所を支援させていただいています。主に、低所得・生活困窮世帯やひとり親世帯等の働く人に対する就労支援、生活支援、さまざまな困難な状況にある子どもに対する食糧支援、学習支援等に対し、自由に活かせるお金があれば、円滑に活動を進めていただけるのではと考えています。
*札幌市では、地域で支え合う体制づくりを推進していくため配置された生活支援コーディネーターのなかで、行政区単位の第1層、日常生活圏域単位の第2層に分かれています。(札幌市HP「生活支援体制整備事業」より)
ろうきん×大学×労働者協同組合
産学連携で労働者協同組合を応援
地域の社会課題解決には私たちだけの力では足りません。そこで現在、北海道ろうきんでは2つのツールを活用しています。一つは、厚生労働省や日本労働者協同組合連合会などと連携し、全国労働金庫協会が作成した「協同労働でつくる 地域の”たすけあい”スタートブック」の活用です。これは労働者協同組合の皆様とコミュニケーションを図り、信頼関係を構築しながら、組合員のお金の相談はもちろん、事業運営に係る相談・アドバイス(伴走支援)に向けた取組み等で活用することを目的として作成されたものです。
スタートブックには、事業計画の立て方、ロジックモデル、資金計画など実践的な内容が盛り込まれており、現場からは「これいいね」「労働者協同組合の新規立ち上げに活用したい」という声もいただいております。
もう一つのツールは、北海学園大学経営学部の佐藤大輔教授の研究室と連携し、労働者協同組合について若者の視点から調査・研究して作成した「なぜ僕らは働くのか?協同労働って何?」という冊子です。もともとは、北海道ろうきんと労働者協同組合の連携の可能性を考えるための「2025ろうきんプロジェクト」が始まりでしたが、学生たちから「現場視察をしたい」との声があがり、子育てサロンや高齢者の憩いの家など道央圏の7事業所を訪問し、冊子にまとめあげました。
今後は全国の労働者協同組合の現場でも活用いただけるとありがたいと考えています。
- 冊子『なぜ僕らは働くのか?協同労働って何?』

労働者協同組合と一緒に「意思のあるお金」で社会の好循環をめざす
北海道ろうきんは、働く人の夢と共感を創造する協同組織の福祉金融機関です。私たちも労働者協同組合も、地域と深くつながり、多様な団体と連携している点が素敵なところだと思っています。今後は、社会連携活動や新たな仕事起こし、労働者協同組合の設立支援など、地域と住民の皆様を巻き込んだ連携を深めていきたいと考えています。
ろうきんの資金は、働く人からお預かりした「意思あるお金」です。労働者協同組合との連携を通じて、今後さらに持続可能で包摂的な社会の実現のために使うという資金の社会的循環の流れを強め、何ができるのかを模索しながら、働く人たちが喜びをもって共生できる社会の実現に寄与していきたいと願っています。
北海道労働金庫(北海道ろうきん)
地域共生推進室 室長 槙田 恵治(まきた のりはる)氏 プロフィール
北海道小樽市出身。本店営業部、営業推進部・非営利協同セクター取引推進室などを経て、2022年3月より地域共生推進室長として現職。「共生社会の実現」をめざしてNPOや生協など非営利・協同セクター、大学と連携しながら地域課題の解決に取り組む。